定額課金が基本であるサブスクリプションにおいて、顧客原価をある程度の活動単位に分解し、それぞれの要素の原価以上に収益を上げるというアプローチはなかなか難しい。「サブスクリプションの収益管理と企業価値評価」1にて著者は、サブスクリプションの収益管理ではそのような要素還元論的に個別採算を管理するのではなく、総合採算で管理する必要がある、としている。要素還元論アプローチの1つであるABC(Activity-Based Costing、活動基準原価計算)と対比する形で解説している。
ABCの構造
ABCは1980年代に、当時ハーバードビジネススクールの助教授だったロビン・クーバーとキャプラン教授による共同研究の成果で。当時グローバル競争の激化により製造間接費の製品別割賦が複雑化し、コストドライバーの多様化に対応した間接費の配賦システムが求められていたことが背景にある。コストドライバーを各製造部門の生産量を基準にするのではなく活動を基準に考えることで、原価改善に繋げる。

図1: 従来の間接費の分解とABCシステムの比較
この原価管理から活動分析をもとにコスト管理・改善を行う。細かく活動を管理するのが非常に難しい場合には時間で配賦する方式も提案されている(TDABC2)。活動という単位で分解し収益管理を行うことで、製造業における固定間接費の管理会計を効果的に行うことが可能となる。このABCの説明や上図は、「原価計算論〔第3版〕」3の第14章を参考にした。
ホリスティックアプローチ
サブスクリプションの場合、もちろん提供するサービス毎に、あるいは顧客毎に収益を管理する必要はあるが、サブスクリプション全体で採算が取れているかどうかは、そのような要素で管理するのではなく総合採算で原価を回収できているか見る必要がある。アプローチの向きの違いでありでABCと背反しているわけではない。例えば製造業にて各部門ごとの収益をモニタリングしつつ工場全体で目標売上個数に集中する全体最適化による原価回収も、ホリスティックアプローチの1種と言っていいらしい。下図は「サブスクリプションの収益管理と企業価値評価」図表2-2の引用。

図2: ホリスティックアプローチ採算管理のイメージ
サブスクリプションの顧客原価は乱暴に言えばCAC(顧客獲得費用)であり、採算が取れているかは、確かに全体論で見ないと判断できない、と納得。