ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ] やっかいな人のマネジメント (ハーバード・ビジネス・レビュー―EIシリーズ) ハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ハーバードビジネスレビューのEmotional Intelligence(EI)に関する論文や記事をまとめたシリーズのうち、特に"Difficult People"=やっかいな人をテーマにしたのが本書。やっかいな人の1つである"Brilliant Jerk"については、昨日メモした「人が壊れるマネジメント」にも記載されていた。

昨今では英語圏で使われている「ブリリアント・ジャーク(Brilliant Jerk:優秀だけどイヤなやつ)」という表現が一般にも知られるようになっており、自身の知識や優秀さを盾に独善的に振る舞う人物がもたらすチームへの悪影響は日本でも認識され始めています。

アンチパターン32 人間関係のトラブルで壊れる (p223)1

冷たい対立と熱い対立

熱い対立とは、当事者が感情的になり直接的な行動に出ている様子。一方の冷たい対立とは、感情を示したり表立った行動はしないが、内心では強い不満を抱え、無視や距離をとる=受動的な攻撃が見られる。そのどちらかによって対処方法は変わる。熱い対立の場合は、冷静な議論ができる場を設ける。冷たい対立であれば、ディベートの仕組みを利用するなど。対立の解消には時間と手間と振り返りの作業を必要とする。この対処にはリーダーとしての資質が現れる。

ストレスコミュニケーション

コミュニケーションの上でストレスが発生する場合は案外多い。

時には「ストレス・コミュニケーション」(Stressful Conversations)に陥ってしまうことがある。それも案外多い。人はちょっとした言葉のやりとりで、通常では考えられないほど傷ついたり、苦悩したりする。ストレス・コミュニケーションは、避けて通ることのできない人生の課題なのである。

2 ストレス・コミュニケーションの対処法

ストレスコミュニケーションの対処法は、会話を成立させる3つの要素 1. 内容の明確化 2. 中立性を保つ 3. 抑制した表現に努める に還元される。それらを踏まえて、以下の3つのテクニックが紹介されている

  1. 相手を尊重する: 責任の一端を認める、相手を尊重する気持ちを伝える
  2. 言い直して矛先をかわす: 議論を中断された時に相手の感情に付き合う必要はない、対決の場面から合意の場面へと切り替える
  3. 言動と人格を区別する: 相手の性格ではなく用いる戦術についてはっきりと指摘する

被害者意識を脱する

やっかいな人に自分が軽んじられたと感じた場合、ヒトは被害者の役を演じがちだが、あまりお勧めできない。そこで、自分の"規定値のレンズ"ではなく、他のレンズを通して物事を見てみなさい、と説く。

被害者を演じることの問題点は、自分が周囲に及ぼす影響力を譲り渡してしまうことだ。 … 人は誰もが自分の既定値のレンズを通して世界を見ている。私たちはそれを現実と呼ぶが、実際には選択的フィルターをかけた世界である。しかし人間には他のレンズを通して世界を見る力がある。自分が負の感情を既定値にしていると気づいたら、以下のレンズを試してほしい。

3 やっかいな人物に対処するコツ

具体的には、以下のレンズ

  1. 現実的楽観主義のレンズ: 自分の体験の外に立って、つまり一段高い視野から、自分の状況を観察する
  2. 逆のレンズ: 悩ます人物の立場から考えてみる
  3. 長期的レンズ: この体験から学べることは何か

受動的攻撃

直接的な対立を避けながら、間接的に相手に不満や敵意を示す行動のことを、受動的攻撃、と呼ぶ。誰でもたまには受動的攻撃をしてしまうが、中には、執拗に攻撃してくる人もいる。

受動的攻撃とは多くの場合、「健全な真の対立をせずに自分の感情のポイントを人に伝える方法」である。

5 受動的攻撃を仕掛けてくる同僚にどう対処するか

これには、相手の言い方ではなく内容に注目し、根底にある問題を理解する。もちろん一歩引いて、自分の行動に原因がないかも自問する。

感情がどのように表現されたかを話し合うのではなく、事務的な態度でこれを行う

5 受動的攻撃を仕掛けてくる同僚にどう対処するか

ストレスの深みにハマった同僚・切迫感に追い立てられる社員

誰もがストレスを感じており、誰もが抱えきれないストレスに直面する時期がある。ストレスが習慣化し、疲れ切っている同僚にはどのように接するべきだろうか。誉めることで彼彼女が自己イメージを改善できるようにしつつ、必要であれば支援を申し出て孤立感を緩和するのが良い。彼彼女が抱えているストレスを小分けにする=認知負荷を減らす、のも有効である。

ストレスと似た話として、常に追い立てられているように働く同僚や、切迫感が組織文化の一部になっているような場合はどうすれば良いだろうか。

本人が拙速だったせいで危機が生じたのに、瀬戸際で食い止めた行動が褒められたりする。切迫感が文化の一部になっているような組織では、リーダーであれ現場の社員であれ、速く動くことが必須条件のようになってしまう。

7 切迫感に追い立てられる社員の管理法

こうした、追い立てられているように働く同僚は、良いパフォーマンスを出していることが多い。しかしその切迫感がチームにプレッシャーとして悪影響を与えていたり、中長期的な視野が欠けて慎重さや思慮深さが欠けていたら問題である。

こうした人たちは、より大きな視野を持たせたり、真逆の人とペアを組ませることで、より良いパフォーマンスを出すこともある。

悪い上司やマニピュレーター

アメリカの全従業員の半数が、キャリアの一定時期に上司から逃れるための退職を経験しているらしい。上司の問題行動は他者を苦しめ、非生産的にするが、上司と円滑な関係を築くことは職務の重要な一部である。ではどうすればいいか

  1. 共感力: 上司が晒されている外的圧力を考慮に入れる。嫌っている上司に共感するのは難しいかもしれないが、共感から学びを得ることはできる
  2. 自分の役割: 大抵は自身が問題の一部になっている。まずは内省から始める。
  3. 反抗を企てる: 事態が改善しない場合は、上司の上司や人事に警告を発する。その際は必ず確実な根拠やデータを示すこと

「私のやり方のどこが間違っているのでしょうか」ではなく、「あなたの目標達成のために、どうしたらもっとお役に立てますか」と尋ねるとよい。

8 「悪い」上司にいかに対処するか

上司や同僚には、他人の心を操ろうとする人=マニピュレーターがいる。そして残念なことに、マニピュレーターはパフォーマンスを良く見せることに長けているため、昇進させる職場は少なくない。

  1. 必要以上に特別扱いされる時は疑う: 同僚が上司が相棒であるかのように振る舞い始めたら良くない兆候
  2. あえて公の前で小さな対立をする: マニピュレーターのその行為が見抜かれたと警告すること
  3. 黙っていない: 信頼できるインサイダーのような振る舞いを期待される場合がある。その意図を明らかにする

サボる社員

仕事に全力を尽くさない人が同僚にいた場合に、どうするのが正しいか。その人の振る舞いが自身の仕事に実質的な影響を与えていなければ、放っておいて自分の仕事に専念するのが良い、というデータがあるが、支障を与えている時は? この場合は、起きている事実を伝えて対話するしかない。「リーダーの作法」2の11章、我慢の限界まで任せる、を思い出した。

それでもダメなら、距離を取らせる(=排除)か取る(=転職)しかない。


  1. 人が壊れるマネジメント (Amazon↩︎

  2. リーダーの作法 (Amazon↩︎