加速主義とは、ものすごく雑に言ってしまえば、社会や経済の変化をあえて加速させることで現状を打破しようとする思想。Wikipediaでは「『加速』と称される社会変革プロセスの過激化を要求する左翼に起源を持つ右翼的な革命的反動思想である」となんとも右か左か謎な説明がされている。右翼的思想ではある。
技術革新に懐疑的なスティーブン・バノンがテクノロジー色の強い政治思想を非難し、イーロン・マスクを批判的に加速主義者と呼ぶなど、特に近年のAI脅威論に対するアンチテーゼとして、加速主義という単語を聞くようになった。
加速主義はジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの「脱領土化」の考えを源流としている。領土化とはあるものが特定の意味・機能・場所に固定されることで、脱領土化とはそれが解体・逸脱・流出していく運動のこと。既存の秩序や枠組みから逸脱し、意味や機能が流動化するプロセスを指す。著書「千のプラトー」では、資本主義は欲望を解放するふりをしながら、実は管理・再編成している、この構造を乗り越えるには欲望を肯定し、資本主義の制御を突き破る必要がある1、みたいな哲学が書かれている。
加速主義を理論体系化したのは、イギリスの哲学者ニック・ランドと言われる。ニック・ランドは資本主義を単なる経済システムではなく、人間の制御を超えて自己増殖・自己加速する「非人間的なプロセス」と捉えた。このプロセスは、技術・情報・欲望を巻き込みながら、人間中心主義や民主主義的価値観を破壊していく2。
日経新聞のトランプ政治への理解というコラムで、民主制を軽視する、という文脈で、加速主義が紹介されていた。
AIを含む技術革新を肯定的に捉えることを、e/acc(効果的加速主義) と呼ぶらしい。ゲイリー・マーカスは「Taming Silicon Valley」3にて、e/accはAIの投資家や開発者の責任の回避が目的に過ぎない、とバッサリ。