スタートアップのM&A阻害要因の1つとしてのれん償却義務が議論の俎上に上がるくらいには、M&Aは活況なんだっけ? と思って調べたら、近年は増加傾向、逆にIPOは低調らしい1

アメリカに比べると件数も調達金額も規模が小さいが、IPO偏重でM&Aが普及されていないのが日本市場の特徴、と言われていた時代はもう10年以上前の話。M&Aに対する偏見や税制の改革が功を奏したのだろう。

「ベンチャ-企業の法務・財務戦略」はベンチャー企業とVC双方における法務・財務の考え方が整理されいて、たまに参照する良書。約15年前の刊行なので、当時M&Aに対して何が議論されていたのか、第12章6節「エグジットとしてのM&A」を見てみる。

ベンチャ-企業の法務・財務戦略 宍戸 善一

当時のM&A環境については

  • 日本の起業家にとっては、自分の会社を売ることは事業が失敗したことを意味する
  • 欧米に比べてM&A市場が未発達。日本のVCの間ではIPO一辺倒主義

制度的阻害要因としては以下を挙げている。

  1. M&A取引形態及び企業再編形態が、その使用が法的に制限されている
  2. 株式の譲渡益に対する課税が上場株と未公開株で異なり、未公開株が不利
  3. 三角合併2等株式の交換を伴うM&Aにおいて、株式譲渡益の課税繰延が最近まで認められなかった
  4. 人員削減を伴う企業リストラが比較的厳しい

2.については、上場株の譲渡益に対して2002年まで「源泉分離課税(1.05%、当時)」で2003年に「申告分離課税(26%、当時)」に一本化されたが、2011年いっぱいまで特例措置として税率10%が適用されていたことを指す。今は、上場株も未公開株も計算方法は異なるが税率は概ね同じである。

本書では、ベンチャー企業がエグジット手段としてM&Aを選ぶ理由として、非常に明快な意見を書いている。

ベンチャー企業が公開できる前提は、そのベンチャー企業の現状の経営陣と経営資源に株式資本を増強することにより、公開後のベンチャー企業の持続的成長が確保できることです。この様な前提ができないベンチャーは公開すべきでありません。そして、この様なベンチャー企業にこそM&Aがふさわしいのです。

ベンチャ-企業の法務・財務戦略 p470

グロース市場再編から3年、マザーズ市場から数えると四半世紀経つが、ようやく時価総額に対する基準が設けられようとしている。