先日の参院選で参政党が議席を伸ばした動きを、第1次トランンプ政権あたりから続き、ドイツAfD(ドイツのための選択肢)やフランスのRD(国民連合)の躍進に続く流れとして捉えられることが多い1

こうした近年の流れは「右翼ポピュリズム」とされているらしい。ポピュリズムって右だっけ?という疑問があり「ポピュリズムとは何か」を読んだ。

ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か 水島 治郎

まずポピュリズムには2つの定義がある。

第一の定義は、固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイルをポピュリズムととらえる定義である。

第二の定義は、「人民」の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動をポピュリズムととらえる定義である。

第1章 ポピュリズムとは何か

政治手法としての定義と、政治運動としての定義。いずれも正しいが、本書では後者、「エリートと人民」の対比を軸として進む。

ポピュリズムの始まり

政治現象としてのポピュリズムが注目されたのは、1900年前後にアメリカの二大政党に挑んだ人民党、別名ポピュリスト党(Populist Party)と言われる。農民や労働者の不満をまとめ上げ、エリート支配を非難した。人民党は一時的に人気を博すも、既存政党の革新主義の政策により存在意義を失い、短命に終わった。

ラテンアメリカ

20世紀、ラテンアメリカにてポピュリズムが席巻する。政治を支配する少数エリートを公然と非難するカリスマ的リーダーが登場し、社会経済上の圧倒的不平等に対し、構造的な改革を迫った。ラテンアメリカは現在も構造的不平等は続き、インフォーマル・セクター2の存在は、ポピュリズムを生み出しやすい構造となっている。

ヨーロッパ

21世紀、民主主義が根付いたヨーロッパでポピュリズムが幅広く支持され始めている。ポピュリズム躍進の理由は3つ。

  • グローバル化やEUの進展、冷戦の終結などにより左右を代表する既成政党が同質化
  • 政党を支持する労働組合、農民団体などの支持母体の弱体化と無党派層の増大
  • グローバル化に伴う産業構造の転換と格差の拡大

現代ヨーロッパのポピュリズムの特徴は3つ

  • マスメディアやSNSを駆使し無党派層に広く訴える政治手法
  • 民主主義を錦の御旗に押し立てた施策。ラディカルデモクラシー3
  • 移民を福祉の濫用者として位置付け、福祉の対象を自国民に限定し、負担となる移民の排除を訴える=福祉排外主義

本書では、ベルギー、オランダ、スイス、イギリスなど、各国でのポピュリズムの動きも見ていく。上記のような点を押さえると、国民投票という極めて民主主義的なやり方で、スイスではイスラムを否定する法律が、イギリスではEU離脱の法律が可決するのも、なんとなく理解できる。

特権層の違い

ラテンアメリカ型を開放思考の左派ポピュリズム、西欧型を抑圧型の右派ポピュリズムとする。

ラテンアメリカのポピュリズムの背景のあるのは … 政治エリートは社会経済エリートと一致しており、そのため、既存の政治を変革し、社会経済上の平等を求める運動は、「分配」志向の左派的傾向を持たざるをえなかったといえる。

ヨーロッパのポピュリズム政党は … むしろ既存の制度による「再分配」によって保護された層を「特権層」と見なし、その「特権層」を引きずり下ろすことを訴えるのである。

第7章 グローバル化するポピュリズム

本書は2017年刊行である。第1次トランプ政権が誕生した頃。そこから8年、第2次トランプ政権が誕生し、抑圧型の右派ポピュリズムはますます力を伸ばしている。


  1. 世界の右派躍進の波、日本にも到達 参政党がとらえた体制不信の民意 - 日本経済新聞 ↩︎

  2. 法的な手続きや政府の統計に記録されない経済活動。労働者階級のさらに下の層、とされる。 ↩︎

  3. 既存の民主主義の枠組みを根本から問い直し、市民の自発的な参加や対話を重視する政治理念 ↩︎