偉大な発見は、よく練られた目標設定によっては達成することはできず、新たな発見を積み重ねることで達成できる、ということをトクトクと説明する本。

目標という幻想 未知なる成果をもたらす、〈オープンエンド〉なアプローチ ケネス・スタンリー

本書では特に、野心的な目標=達成できるかどうかが全くを持って不確実な目標を焦点にしている。適度な目標、控えめな目標の有効性については特に否定していない。

論旨は以下だろうか。

  • 「新規性を発見する」というアルゴリズムが、逐次的なアプローチよりもスマートな問題解決を行うだけでなく、思いがけない成果を得られることが、いくつかの実験で判明した。これは、過去の偉大な発見や生物進化のアプローチとも付合する。
  • 一方で、目標を設定することで、イノベーションや心踊るような成果の障害となることが、過去の事例から推察できる
  • よって、野心的な目標を達成するためには、目標そのものの価値を疑い、非目標型発見や発散型探究といったオープンエンドなアプローチが適している

要は大きな成果は、セレンディピティが起きやすい環境でこそ生まれる、というのを、進化的アルゴリズムのアプローチと過去の事例から解説している。

我々は小さな頃から目標の定義と実行というアプローチに慣れてしまっているため、目標そのものの価値を疑うということすらしない。よって真にオープンエンドなアプローチを実行することは、それはそれで覚悟が必要である。

確かに、そもそも偉大な成果というのはどうアプローチすればいいのかわからないものだから、Novelty Search(新規性探索)の方が適している、というのは説得力はある。

思いがけない成果を出す好例として幾度となく紹介されるPicbreederに、そこまでの説得力はない気もするのだが。

オープンエンドネスから見る進化論の解釈

附録1では、進化論を適者生存(自然選択)ではなく、新規性と多様性の蓄積として解釈する方法を紹介している。

このような視点の転換により、進化は執拗に最適化を勧める存在ではなく、古典的なトレジャーハンターとして浮かび上がる。つまり、自然進化の顕著な特徴には、新規性と多様性を蓄積していくということがある。人間のイノベーションや新規性探索において足がかりが積み重なるのと同じように、自然進化も地球上で生き延びるためのさまざまな方法を蓄積している。

第10章 附録1:自然進化の再解釈

そもそも、進化という探索をベースにアルゴリズムにしたものが、進化計算なので、進化計算アルゴリズムが進化論をよく説明できるのは、そりゃそうだ、という感想

余談

SakanaAIはこのオープンエンドネスを重視し1、本書の宣伝も積極的に行なっている2。社内では課題図書とか必読書になっているという噂があり、ちょうど関係者とご飯を食べる機会があったので噂について聞いたところ、「オープンエンドネスに関連する用語は社内でよく出てくるから、知っていた方がいいけど、本読まなくても解説記事とか講演動画とかでいいのでは」とのこと。