「温度が10度上がると故障率が倍になる」というアレニウスの法則に関するメモ

アレニウスの式

化学反応の進行は活性化エネルギー\(E_a\)という山を超え、より低位の状態に進む。この反応速度はアレニウスの式で表現される。物理的な根拠は示されているが、理論的に導出されたものではなく経験的に得られた式らしい1

$$ k = A \exp\left(-\frac{E_{\mathrm{a}}}{k_{B} T}\right) $$

  • \(k\): 速度定数
  • \(A\): 定数
  • \(k_B\): ボルツマン定数

つまり化学反応の速度は温度に依存することを表している。速度"定数"ではあるが、いったん\(k(T)\)とおく。

機械製品やその電子部品に使用されている素材も、何らかの化学反応により故障する、と仮定した場合、アレニウスの式が表す通り、故障率も温度に比例すると解釈できる。故障率を雑に \(\lambda(T)\)とした場合

$$ \lambda(T)\propto k(T) = A \exp\left(-\frac{E_{a}}{k_{B} T}\right) $$

ここで両辺の対数を取ると

$$ \ln \lambda = A’ -\frac{E_{a}}{k_{B} T} $$

つまり、故障率(の対数)は温度に対して負の反比例の関係となる。温度が高くなればなるほど、故障率は上がる。

\(Q_{10}\) 温度計数

生物学や化学で使用される、化学反応速度 \(Q_{10}\)という指標がある。温度に対する反応速度の感応度に該当する2

$$ Q_{10}=\frac{k(T+10)}{k(T)} $$

\(Q_{10}=2\)であれば、温度が10度上がった時、速度も2倍、ということを意味する。これにアレニウスの式を当てはめる

$$ \begin{aligned} Q_{10}&=\frac{k(T+10)}{k(T)}\\ &=\exp\Big[-\frac{E_{a}}{k_{B}}\Big(\frac{1}{T+10}-\frac{1}{T}\Big)\Big] \end{aligned} $$

この式は、信頼性ハンドブックでは温度加速と同等である。

アレニウスの法則

かなり恣意的だが、常温\(T\fallingdotseq 298\)でこの\(Q_{10}\)が2となるような \(E_a\)は

$$ E_a \fallingdotseq 52.9 \mathrm{kJ}/\mathrm{mol} \fallingdotseq 0.55 \mathrm{eV} $$

多くの化学反応、劣化現象、電子部品の故障モードの代表的な活性化エネルギーの範囲は \(0.4\sim0.8 \mathrm{eV}\) と言われている。これが「温度が10度上がると故障率が倍になる」というアレニウスの法則に該当する。