ウルフパック戦術(wolf-pack activism / ウルフパック型アクティビズム)とは、複数の投資家やファンドが暗黙の了解のもとで連携して、特定企業の株式を大量に取得する行動を指す。表面上は独立した行動であるが、経営権取得や改革、株価つり上げなど、特定の意図が共有され、かつ大量保有報告義務が回避されている。
金融商品取引法の大量保有報告制度では、いわゆる5%ルールが定められている。上場企業の株式を5%を超えて取得した場合は、原則として5営業日以内に報告する義務がある1。この制度は株式市場の公正性・透明性を保ち、不当な支配や情報鵜格差を防ぐための仕組み。他の投資家がリスクを正しく判断したり、不意打ち的な乗っ取りに対する防衛、投資家間の公平な競争環境の維持のために、このルールが設定されている。
ウルフパックはこの制度の抜け道を利用しているわけで、監督当局は「実質的な協力関係がある場合は共有保有とみなす」よう方針を厳格化している。
地域新聞社に対するウルフパックの疑い、というニュースを見かけたのでメモ2。で、このウルフパックの過去の事例として、三ツ星の事例が面白かった。
- 東証スタンダード上場の老舗電線メーカー三ツ星の事例としたウルフパック的活動とポイズンピルによる防衛策の課題の分析
- 2022年2月、アダージキャピタルらが突然、三ツ星に対して社長を含む取締役3人の解任と新たな取締役3人の選任を含む株主提案を行う
- 三ツ星経営陣は臨時株主総会でそれを退けたうえで、「適格者」と判断した株主に通常の株を割り当てる一方、「非被適格者」には権利行使に制限のある株を発行するとした増資を発表。いわゆるポイズンピルの導入
- 反発したアダージ側が差し止めを求めて大阪地裁に提訴。地裁は「増資を正当化するものはなく、割当は不公正な方法によるもの」という理由で差し止めた。2022年7月に最高裁で確定。同年9月に経営陣は退任
- ウルフパックに対する判断ではなく、ポイズンピル導入の決議に合理性を担保できないという判断
三ツ星の事例を浦田悠一弁護士が分析されていた。
- 三ツ星のポイズン・ピル自体の構造が必ずしも問題だったわけではなく、むしろ企業側の運用・対応に問題があったと分析
- 企業がウルフパック的な株主動向をみたとき、防衛策としてポイズン・ピルを導入する際には、合理的・比例的な制度設計が求めらる
- 例えば「買収者グループからの株式取得を解除できる明確なプロセス」「脱出(exit)可能性を株主に説明する」などが挙げられる
- 監督当局側には「保有目的・株主連携の実態を把握する仕組みの強化」「実質的な保有者(Ultimate Beneficial Owner: UBO)情報の整備」「大量保有報告制度の実効的な運用・監視」の必要性を指摘
- 日本はG7諸国の中でも、UBO開示・株主動向監視の整備が遅れており、今度制度・監視体制の強化が望まれている
金融庁の情報開示システムEDINETを通じて行う ↩︎