ダークパターンとは、ユーザーを意図せず不利な行動へ誘導したり、望まない選択をさせるために設計されたUIデザインを指す。
著者自身は2010年に自ら定義したダークパターンを広義に拡張し、 Deceptive Pattern(人を欺くパターン) という言葉を使うようにしている(p13)。原著のタイトルにもなっている。
例えば、空港で搭乗口に行くまで必ずショッピングエリアを通るようなフロアレイアウトはウェブUIではないがDeceptive Patternの1つ。あるいは納税の督促状に近隣住民の未納者数を記述し納付者を増やす方法は、ダークパターンではあるがダークという言い方にネガティブな印象を与えるため、著者はManipulative Patternと呼んでいる。
Deceptive PatternあるいはManipulative Patternを指す言葉は従来もいくつか種類があった。以下の2つはダークパターンとともに目にしたが、日本ではダークパターンに収斂されてきている気がする。
- Asshole design: ユーザーに不利益を与えることを意図てして作られたデザイン。Redditなどで使われているのを目にする
- Sludge(スラッジ): ユーザーが望む行動を妨げるために、意図的に面倒・複雑・遅いプロセスを作ること
とにかく解約がなかなかできない解約申込ページがSNSで批判されるとともに、ダークパターンという言葉も広まっていった印象だが、他にも様々なパターンが観測される。以下は、プリンストン大Arunesh Mathur氏らの分類1(p114)。
- Sneaking: こっそり(=Sneaking)追加オプションや継続コースを購入させる、など
- Urgency: カウントダウンタイマー表示などで、限定感を装う
- Misdirection: 視覚的あるいは文章的に分かりにくい表現で、特定の選択肢を選ばせる、もしくは選びにくくさせる
- Social proof: (不正な)口コミや他ユーザーの行動を表示し、特定の行動のハードルを下げる
- Scarcity: (不当な)在庫数表示により、入手欲求を掻き立てる
- Obstruction: 解約しずらい解約申し込みなど、ユーザーの行動を妨害(=Obstruction)する
- Forced action: 目的のために、個人情報の提供などを強制させる
ホテル予約サイトで「この部屋は何人が閲覧しました」と出たり、ECサイトで「残り5点です」と出ることがあるが、これは数字を自由にカスタマイズできるプラグインで表示されていることがある。地域や期間を指定していないため、嘘をついているわけではない、という理屈。いずれもユーザーをリアルタイムと勘違いさせるとして、プラットフォーム側がプラグインを禁止したり、悪質なものは各地域の不公正取引禁止令(日本だと景品表示法)に抵触したりする。
ダークパターンが出てきたのは、トラッキング技術が普及し、あらゆるユーザー行動がメトリクス化されたことが大きい。特に手軽にA/Bテストを行えるフレームワークが充実してきた。A/Bテストは対象となるパフォーマンスが向上したかどうかを測定するが、ユーザーにとって良い悪いの判断を行うわけではない。良い悪いの判断は、結局のところエンジニアやデザイナーの良心にかかっている。
著者がダークパターンについて言及した2010年当時は、このパターンについて周知し企業を名指しで批判すれば、業界が自主的に規制し解決へ向かうと期待していた。しかし日々新たなダークパターンが開発され規制は追いつかず、また表面化されないケースも多く、教育と倫理規定だけでは問題は解決しない。
普通のディセプティブパターンは、さりげなく紛れ込んでいるものだ。そのせいで、自分が被害を受けた(たとえば欲しくもないおまけに数ドル支払う羽目になったなど)と気づいていない人たちも多く、彼らは不満を抱くべきだという自覚すらない。
第5章 ディセプティブパターンを撲滅するために (p223)
ユーザーがダークパターンで不利益を被ったとしても、その記録を再現できないことが多いのも、研究者の悩みの種である。面倒な解約やプライバシー設定は1回きりであり、記録されず、再現するにも面倒である。
将来の話してとしては、AIツールの台頭により、説得プロファイリングの濫用の可能性を指摘している。説得プロファイリング(Persuasion Profiling)とは、個々のユーザーがどんな説得パターンに反応しやすいかを分析し、その人に最も効果的な方法で行動を促す個別最適化テクニックのことで(p284)、ダークパターンと近接するであろうことは想像に難くない。
ダークパターンはUIの問題に留まらず、心理学、デザイン、法律が交差するところにある。
善意でナッジするという姿勢が、ただの期待ではなく当たり前のルールになるように取り組もうではないか。我々のプロダクトや市場に、人を操ったり欺いたりする仕組みの存在を許してはならない。
第6章 未来への歩み (p293)
