感情労働という概念がある。

  • 肉体労働(Physical labor): その名の通り、体を使う労働
  • 頭脳労働(Intellectual labor): 思考・知識を使う労働

これに対して、感情労働とは、感情をコントロールして相手に対応することが求められる労働のこと。自分の気分や本心を調整し、適切な感情表現をすること自体仕事の一部。これらは直交した類型で、例えば配達ドライバーは基本的には肉体労働かもしれないが、荷物の受け取りや玄関先では感情労働のような様相が出てくるかもしれないし、書店員の接客は感情労働かもしれないが、品出しはかなりの肉体労働でもある。

感情を調整する作業や営みをemotional work、それによって給与が発生する場合はemotional laborと使い分ける12。日本語だと、前者を「広義の感情労働」とか「感情的作業」とかで訳し分ける。

1979年にArlie Russell Hochschild氏が感情労働という概念を提唱し、1983年にManaged Heartという書籍にまとめた。客室乗務員などを対象に、労働環境と感情への影響を調査し、表層演技と深層演技に分け、特に表層演技を「感情労働」という概念で定義している3。原著は2013年に再版されている、この手の研究の古典的バイブル(Amazon

  • 表層演技: 感情は変えていないが、外面だけ整えるような演技
  • 深層演技: 内面の感情自体を変える努力
管理される心: 感情が商品になるとき A.R. ホックシールド

感情労働尺度(Emotional Labor Scale)

こうした感情労働を測定するためのツールとして、感情労働尺度(Emotional Labor Scale, ELS)を開発したとする研究がいくつかある。代表的なのが、Brotheridge & Leeによる研究。

表層演技と深層演技に、仕事側の要求として頻度、強度、多様性、持続時間の4つを加えた、計6つの鑑定(下位因子)を測定する。持続時間は数値だが、他は5段階のリッカート法4

感情労働を単純化し過ぎているとか、仕事上の要求と感情的な行動が混在しているとか、文化的な差異を考慮していないなどの批判はあるものの、バーンアウトや離職についての分析でこのELSをベースにした調査がよく行われている。

感情労働に従事する人がChatGPTなどによりコミュニケーションを学んだりストレスを緩和する、という調査が面白かった。