さまざまな業界のリーダーがさまざまな分野の課題を横断的に議論し、世界の方向性を分野を超えた対話で探るのが世界経済フォーラムの年次総会、通称ダボス会議の価値とする。そこに対話など微塵もする気がなく持論をぶつけるだけのトランプ大統領が、大量の代表団を引き連れて6年ぶりに対面参加した。なんとも滑稽な話だ。

分断が進み、地政学リスクが常態化する中で、参加者自身が優先順位を変えた結果であろう。対話より取引、理念より力。トランプ氏と対極にあったダボスがトランプ氏のおかげで記録的な参加者となったのは皮肉といえなくもない。

トランプ大統領に乗っ取られたダボス 対話通じぬ「怪物の時代」映す - 日本経済新聞

去年のダボス会議ではEUの悲観主義が議論テーマの1つで、ある意味で去年のEUの世情だったわけだが(関連メモ)、同様に今年のダボス会議が今年の世情なんだとすると、なかなかに笑えない話である。

そんな中で、カナダのカーニー首相のスピーチが注目を集めている。

カナダ大使館による仮訳つき動画1や、日経新聞による翻訳も公開されている2。非常に面白い。

「ルールだ秩序言うても、まあアメリカさん中心にうまいことやって繁栄してたんやけど、そらもうこの取引はあかん、破滅まっしぐらやで。嘘八百やのに『団結せよ~』なんて看板掲げるんはもうええ加減やめよか。これからはな、戦略的に自律していかなあかんのや」的な。というなんちゃって関西弁はともかく(関連メモ)、スタンディングオベーションも納得のスピーチ。

価値観に基づく現実主義

ここでカーニー首相が言及している「価値観に基づく現実主義」は、フィンランドのアレクサンダー・ストゥブ大統領が近年の安全保障・外交文脈で使っている表現で、ストゥブ氏の選挙キャンペーン中から掲げられたフレーズらしい

一言で言うと「力と利害の現実を直視しつつ、民主主義・法の支配・人権という価値観は譲らない現実主義」だろうか。

上記記事では、「安全保障と価値観が対立する場合には、現実主義に基づき安全保障を優先する」「それはただの現実主義では?」と、批判的な意見も紹介されている。やや難解。フィンランドの外交意思決定が複雑なのと相まって、極めて回りくどい外交思想とも言える。

ストゥブ大統領のダボス会議でのコメント。自由主義的な国際秩序は変容しているとして、安全保障よりの主張を展開している。