2017年にAttentionでTransformerが発表された時にLLMのような基盤モデルにつながると予想してなかったし、2020年にGPT-3が出た時にChatGPTやClaudeのようなコーポレートサービスを代替するツールになるとは予想してなかった。

これは予想できたことだったのだろうか。という発想から、ずっと積読してた、未来学者の1人であるエイミー・ウェブ氏の2016年の著作(翻訳は2017年)「シグナル:未来学者が教える予測の技術」を読んだ。

未来学

未来学とは、今ある技術や社会、ビジネスの変化の兆しを集めて、ありうる複数の未来シナリオを描く方法を模索する学問、とされる。予想屋ではなく、変化に備えて考えるための地図を作る活動に近いと喩えられる。

シグナル:未来学者が教える予測の技術 エイミー・ウェブ

「シグナル」では、ありうる未来を読むための方法論として、6つのステップを紹介している(p58)。

  1. 社会の端っこに目を凝らす
  2. CIPHERを探す
  3. 正しい質問をする
  4. ETAを計算する
  5. シナリオと戦略を考える
  6. 行動計画の有効性を確認する

トレンドを見つける

一時的な流行ではなく、複数のシグナル(変化の兆し)が集まって方向性として現れたものをトレンドと呼び、このトレンドを見つけることが未来学では重要となる。Uberが登場した時、Uber for Xと称するサービスが多く現れたが、これはトレンディーであってトレンドではない(関連メモ)。

社会の端っこで発生している想定外の新情報をCIPHERモデルで整理する。 CIPHERとは、Contradictions(矛盾)、 Infections(変曲)、Practices(慣行)、Hacks(工夫)、Extremes(極端)、Rarities(希少)のことで、トレンドの手がかりを探すポイント。著者は識別子と呼んでいる(p214)。それら情報同士のつながりを正しい質問で明確化する。

例えば、クローン羊のドリーCRISPR/Cas9に対して、以下の質問をしながら、次に何が起こりうるか予想する手がかりを掴んでいく(p168)。

  1. この分野に直接、間接的にかかわっているのは誰か
  2. この分野の実験に資金を出している、あるいは他の形で奨励しているのは誰か
  3. この出来事によって直接的影響を被るのは誰か
  4. このような変化を阻もうとする動機を持っているのは誰か。そうすることで何か得をする、あるいは損をするのは誰か
  5. このアイデアをもっと壮大なこと、あるいはもっとすばらしいことの出発点とみる可能性があるのは誰か

見つけたトレンドが今軌道上のどこにあるかをカーナビのETA(到着予定時刻)のように計算する。つまり、トレンドのタイミングは、テクノロジーの内的進歩Iと、影響を及ぼしうる外的事象Eを加味して算出する。

新たなテクノロジーの場合、内的進歩(ソフトウェア、システム、プラットフォームに関するたくさんの到達点)は通常、われわれの目に映らない。たいていの人は劇的な変化を目の当たりにするまで、変化が起きていることを認めようとしないからだ。

7 STEP4 ETAを計算する (p281)

行動を起こす

もし[A=事実、視点、構想]ならば、[B=結果]せよ」というパターンに当てまめて、戦略を考える(p310)。以下の7つの質問で、ネットワーク上に想定する登場人物と立ち位置を検討していく(p312)。

  1. このテクノロジー・トレンドと関連性のある、収斂しつつあるトレンド候補にはどんなものがあるだろう。そこに絡んでいるのは誰か
  2. このトレンドが成功/失敗したら、さまざまな人や組織にどんな影響があるのか
  3. このトレンドは特定の産業、企業、政府、およびその構成要素にどんな影響を与えるのか。プレーヤーは誰か
  4. 変化の推進役となるのは誰か、どの組織か
  5. トレンドはどのような集団(顧客、選挙区民、一般市民など)の役に立つのか
  6. 競合企業はどのようにトレンドを妨害しているのか(あるいは妨害に失敗しているのか)。競合はしない類似企業は、トレンドをどのように活用しているのか
  7. トレンドによって、産業、企業、政府、あるいは他の組織の垣根を越えて、新たな共同事業や協力関係が生じるのはどこか

楽観的〜破滅的なシナリオを確信度と共に整理し、FUTUREテストと呼ばれる質問群で検証する。FUTUREテストとは、Foundation(基礎)、Unique(唯一)、Track(追跡)、Urgent(緊急性)、Recalibrate(手直し)、Extensible(拡張性)のことで、ストレステストの役割も担う。マイクロソフトのTayの暴走1はほとんどのFUTUREテストには合格したかもしれないが、当時のTwitterのような多くのユーザーを抱えるSNSにAI botを投入するとどうなるのか、という基礎的な検証を怠っていた(p340)。

こうしてみると、技術的なトレンドと与える影響を考察するときに、関係者を洗い出し、彼ら彼女らがどう考えるか、といった「つながり」を非常に深く考察しているように思う。この考察を行うための、非常に構造化された質問フレームワークを提供している本、と言える。