# 感想: 制裁：国家による外交戦略の謎

トランプ大統領が乱発している[制裁関税](https://www.nikkei.com/topics/22A00476)だけど、そもそも制裁とはどのように理論化されているのか知りたくて手に取った本。原著はウクライナ戦争が始まった2022年に刊行された。

{{< amazon
  url="https://amzn.to/4uani7Y"
  title="制裁：国家による外交戦略の謎"
  author="ブルース・W・ジェントルスン"
  isbn="4560091293" >}}

### 制裁の学術的理論

本書では、国家や国家連合が、別の国や地域、特定の団体を対象に何かしらの行動を変更させることを目的とした経済制裁を、研究の対象としている。

* 何を対象にしているか: 貿易、金融、対外支援、渡航、スポーツ、文化
* どこまでを範囲にしているか: 包括的、部分的、特定のターゲット、二次的

制裁の発動者と標的に加えて、周辺地域や制裁の迂回、二次制裁など、間接的に影響を与える・受ける第三者も、制裁の主要アクターである（p32）。

制裁の目的は一次的と二次的な目的を区別する（p33）

* 一次的: 標的の望ましくない政策を変えようとする。軍事的能力の制限、外交能力の制限、国内政策の変更など
* 二次的: これ以上の行動を抑止したり、第三者が標的と同じ行動をとることを抑止したりと、解決策を示す努力のこと

標的となった相手の、影響力のある（主にエリート）層の行動は以下の2つのパターンがある（p36）

* トランスミッションベルト: 状況に合わせて体力に応じながら動く。例えば政策の変更を迫ることが自分たちの利益につながると考える
* サーキットブレーカー: 制裁による損害から保護する。制裁の影響を遮断することが自分たちの利益につながると考える

もちろん、発動者にとっては、トランスミッションベルトとして機能してほしい

このような観点で制裁の体系化は可能だが、実際の制裁は多面的である。これは制裁の効果や成否を検討するのがとても困難、ということを意味する。

例えば、中国で見られる、SNSなどを介して世論を誘導し不買運動など行うターゲット制裁（最近はスマート制裁と呼ばれる）は、 言論統制という意味で直接関係のない多くの第三者に影響を与えるし、いつからいつまでが制裁の期間なのかもはっきりしない。

* 何かしらの行動変容を持ってして成功か？
* 経済的なインパクトを与えれば成功か？
* 制裁の期間をどのように考えるば良いか？
* 複数の制裁により複数の目的が重なっていた場合は、どのように計測するのが正しいか？

本書では、多面的な解釈のまま、1つ1つのケースを見ていく

### 実際のケース

主にアメリカ、中国、ソ連/ロシア、国連/EUが発動者となってケースについて、数個をピックアップし、上記のような観点で分析し、その結果（成否）を解説する。

まず共通して言えるのは、制裁する側には力が必要である。

> ソ連／ロシアが制裁を用いることは、ほかの大国に比べてはるかに少ない。これは、石油や天然ガス以外のソ連／ロシアの非軍事的物資や技術の世界的な魅力が限られていることを示している
>
> _第7章　ソ連／ロシア（p220）_

当たり前の話だけど、発動者は制裁というカードを切れるだけの魅力がないと無視されるだけである。

* アメリカにとって制裁は重要な外交カードであり、過度に制裁を発動してきた。人権保護や民主化推進という面では一定の成功例はある。金融制裁は経済的なインパクトは大きいものの、政策的影響は限定的である
* 中国は他国の経済制裁を批判する一方で、自国も多くの経済制裁を発動している。国内の政治変化に比べると、国外政治への影響は限定的だが、今後中国の一帯一路戦略が進むことで、より多くの制裁が発動されるかもしれない
* ロシアの旧ソ連各国への影響は限定的。一方でエネルギー貿易を使った制裁は、繰り返しアメリカやヨーロッパに大きな緊張をもたらしてきた
* 国連の制裁は、手段が制限される中で目的が多面的という不釣り合いにより、成功率は高くない。

> 安保理の政治、限定された権限、リソースの限界、官僚主義といった、国連内の組織能力の問題を顕在化させたものである。
>
> _第8章　国際連合と欧州連合（p242）_

確かに経済的な損失を与えるという意味で、制裁は一定の効果はあるものの、貧困層への人道的影響や自国への経済的負担、政策は非常に限定的なことを考えると、非常にコスパの悪い戦略と言える。

